ついに航空自衛隊にも配備された最新鋭ステルス機
2018年1月26日、航空自衛隊三沢基地(青森県)に自衛隊初のF35A戦闘機が配備されました。
F35はアメリカやその他数カ国で国際共同開発された最新鋭のステルス戦闘機で、空対空戦闘はもちろん、対地攻撃や電子攻撃能力(敵のレーダーを無効化するなどの能力)までも兼ね備えています。
航空自衛隊には今のところ、F4EJ改(ベトナム戦争の頃に製造された戦闘機)の更新としてF35Aが42機三沢基地に配備される予定です。
F35はF22の劣化版なのか?
F35はしばしば、"F22の劣化版"といった言われ方をすることもあります。
F22とは言わずも知れた、アメリカ空軍が誇る世界最強の戦闘機です。非常に高度なステルス性能、高い空対空攻撃能力と運動性能を持ち、他機種を引き離しています。
その高性能さ故に、アメリカ政府はF22戦闘機を輸出禁止としてしまったほどです。
日本政府も当初、F22の導入を希望していましたが、アメリカ政府がこれを認めなかったためやむなくF35を選定したという経緯があります。
しかし、F35はF22に劣っているということは決してありません。たしかに、F22の高い機動力はF35のそれを凌駕するでしょう。それではなぜ、機動力に劣るF35がF22に劣っていないと言えるのでしょうか?
現代の戦闘機に求められるものは情報処理能力とレーダー・ミサイルの性能
ステルス機VS非ステルス機の空中戦は、我々が想像しがちな飛行機で追いかけ合う戦い(いわゆるドッグファイト)はあまり行われないでしょう。
今や、戦闘機の強さを決めるのは、情報処理能力、ネットワーク能力、レーダー能力、ミサイルの性能なのです。(もちろん機動力も大切ですが。機動力の必要性については後述)
"ファーストルック、ファーストショット、ファーストキル"
これはこれからの戦闘機に求められる能力、すなわち「相手より先にレーダーで敵を見つけ、相手より先に敵にミサイルを撃ち、相手より先に敵機を撃墜する」という能力です。
これらには高性能なレーダーと、高性能なミサイル、僚機との情報共有や戦術処理のための高度な情報能力が必要なことが分かるでしょう。
F35は高度なステルス性能と、情報処理能力を武器に相手が非ステルス機ならば、遥か彼方から敵機を一方的に撃墜することができるのです。
しかし、相手がステルス機の場合はどうなるのでしょうか?
ステルス機VSステルス機
近年、各国でステルス戦闘機の開発が進められており、中国では国内向けのJ20、輸出向けのFC31[J31]、ロシアではSu57などが開発されています。
FC31[J31](中国瀋陽飛機工業集団)
これらのステルス機同士の戦いはどのような様相を見せるのでしょうか?
ステルス機同士ではお互いがレーダーに映りにくいので、気づかずに至近距離まで相手に接近してしまう可能性があります。
こうなったら機動力(運動性能)の高い方が勝つでしょう。
これを避けるためには相手をなんとしてでも見つける必要があります。
そこで、高度な情報能力と高性能レーダーが必要となるのです。
そもそも、ステルス戦闘機は相手からのレーダー波を様々な角度に反射し返すことによって相手に探知されにくくしたものです。
ですから、味方の戦闘機のレーダーの情報を高度な情報能力で統合して処理すれば単機の場合よりずっと敵機を見つけやすくなるでしょう。
F35は3種類ある
次に、F35の種類を見てみましょう。F35にはA B Cの3つのタイプがあります。
A型:通常仕様の空軍タイプ
B型:より短い滑走路での短距離離着陸や垂直離着陸可能な海兵隊仕様のタイプ
C型:空母艦載機用でカタパルトを使用して発進する海軍仕様機
A型はすでに自衛隊も導入を決めている空軍仕様機です。C型はアメリカ海軍の空母の艦載機となる予定で現在配備中のF/A18戦闘攻撃機の後継となります。
さらに、これらのうちのB型はA型に加え、自衛隊に導入される可能性もあるのです。なぜでしょうか?
*追記 航空自衛隊へF35Bを42機導入することが決定しました。
航空自衛隊・F35導入計画の全貌が判明!運用方法や機数など!
http://milita15.blogo.jp/archives/13977818.html
短距離で離着陸できる意義
有事の際に、もしも自衛隊基地や主要空港の滑走路が弾道ミサイルや敵の破壊工作で使用できなくなったらどうでしょうか。
自衛隊は戦闘機を使えなくなってしまうのです。そこでF35Bの出番となります。
F35B(アメリカ海兵隊)
普通、戦闘機は離着陸に3000m級の大型滑走路が必要ですが、そのような滑走路を有する空港や基地はあまり多くありません。
もし、F35Bを導入できれば、わずかな距離(数百メートル)もあればフル武装で十分離陸可能です。例えば小さな離島の空港も利用可能となるのです。すなわち、戦闘機を運用できる場所が増えて、より柔軟な作戦が可能になります。
産経新聞によれば、F35Bを新田原基地(宮崎県)に配備することを検討しているようです。
自衛隊への空母導入も
*追記 :護衛艦いずもを改修して、F35Bを搭載可能にすることが決定しました。
【速報!】護衛艦いずもの空母化(F35B搭載)がほぼ決定!「多用途運用母艦」!
http://milita15.blogo.jp/archives/13647795.html
複数の報道機関によれば、日本政府はF35Bを海上自衛隊が保有するいずも型護衛艦に搭載することを検討中といいます。
いずも型護衛艦は最新のヘリコプター空母で、現在 "いずも" と "かが" の2隻が就役しています。基準排水量19500t、満載排水量27000tの巨大なそれらは、理論的にはF35Bを十分に搭載可能です。
しかし、いずも型護衛艦は元々、対潜哨戒ヘリコプターを載せるために建造されたものなので、F35Bを載せてしまうと敵潜水艦の探知能力が低下してしまうのではといった懸念もあります。
さらに、B型はA型と比べて割高であることや、現行の憲法9条との兼ね合いもあり現実的には様々な困難が伴いそうです。
余談ですが、東京新聞の報道によれば、日本政府はF35Bを搭載可能な全く新しい強襲揚陸艦の建造も検討しているとのことです。
【関連記事】
http://milita15.blogo.jp/archives/7087158.html
「護衛艦いずもは"空母"となるのか?」
追記:2018.11.27
護衛艦いずもの飛行甲板を改装して、F35Bを導入する方向でほぼ決定のようです。詳しくはコチラ
http://milita15.blogo.jp/archives/13647795.html
「【速報!】護衛艦いずもの空母化(F35B搭載)がほぼ決定!」
F35の追加導入の可能性
先程述べた通り、既に導入が決定している42機分のF35AはF4EJ改の更新用ですが、一部の旧式化したF15JもF35Aで入れ替えられるのはほぼ間違いないでしょう。
現在、航空自衛隊に配備中のF15Jは約半数がpre-MSIPという旧式機です。pre-MSIP機は機内配線があまりにも旧式のため、これ以上の改修には限界があるためF35Aを追加調達することで更新するでしょう。その場合、航空自衛隊のF35Aの調達機数は100機を超える数になります。
F35はエンジンが単発であり、双発のF15と比べてエンジントラブルに弱いという側面がありますが、アメリカがF22の輸出禁止に加えて、製造を打ち切ってしまった今、選択肢はF35Aしかないのが現状です。
追記:2018.11.28
F15J pre-MSIPはF35A約100機の追加購入による更新でほぼ決定のようです。
詳しくコチラ。
http://milita15.blogo.jp/archives/13666731.html
「自衛隊にF35A戦闘機を100機追加調達へ!トランプ政権とは無関係!」
F35の今後とこれから
F35は各国に配備が始まっていますが、開発がこれで終了したわけではありません。
戦闘機に限らず、艦船やミサイルもそうですが、現代の兵器ではソフトウェアが非常に重要です。コンピュータのようにソフトウェアを書き換えることで様々な機能を追加可能なのです。
さらに、そのソフトウェアは段階的にグレードアップされていくのです。
例えば、F35Aの初期型のソフトウェア(ブロック3i)では、機関砲も運用できませんが、空自に引き渡されるF35Aには機関砲や短射程ミサイルが運用可能なソフトウェア(ブロック3F)が、さらに2019年にはさらに高機能なソフトウェア(ブロック4)が完成予定です。
現代兵器はこのようにして、ソフトウェアのアップグレードによって順次機能が追加されるのです。
もちろん、ソフトウェアの更新だけではなく、ハードウェア(機体や設備)の更新も重要です。
具体的には、配備当初、かなり悪評が立った航空自衛隊のF2戦闘機があります。
F2は、登場時に、戦闘機では世界で初めてのAESAレーダー(J/APG-1)を搭載しましたが、初期段階では不具合を頻繁しました。
しかし、現在は新しいレーダー(J/APG-2)への換装も完了して、バージョンアップしていますし、新型の空対空ミサイル(AAM-4)の運用能力も獲得して、登場時とは比べられないほどの進化を遂げています。
また、F35は高い対地攻撃能力を持つことも特筆すべきです。
戦後しばらくの間、"対地攻撃能力"は侵略的で、専守防衛には必要がないと考えられてきました。例えば、F4戦闘機は、自衛隊への導入時に爆撃コンピュータを取り外して導入されました。
かつて、ここまで敏感だった日本が、遂にF35によって本格的な対地攻撃能力を手に入れることになるのです。
【関連記事】
http://milita15.blogo.jp/archives/7008511.html
「日本の弾道ミサイル防衛の仕組み!敵基地攻撃能力とは?」
将来的には、航空自衛隊が導入する巡航ミサイル"JSM"(射程500km超)も搭載する予定です。
さらに、F15Jを"ミサイルキャリアー"に改修して、F15改修機がステルス機であるF35の後方を飛んで安全圏から大量の空対空ミサイルを発射する、といった作戦も想定されているようです。
*F15に関しては改修等の話も含めて記事にする予定です。
*F15のミサイルキャリアー化については、ボーイング社がアメリカ空軍に"F15 2040C"として提案した改修案を航空自衛隊にも提示したとのことです。
F15 2040C
ここまで、F35に関して、浅く広くご紹介させて頂きました。
まだまだ発展途上のF35、将来の活躍に期待しても良さそうです。