日本にとっての島嶼防衛とは、すなわち対中国戦

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皆さんもご存知の通り、中国は近年急激に肥大化して南シナ海・東シナ海での活動を活発化させています。そんな中、日本でも尖閣諸島問題は最も大きな懸案の1つです。(ただし、日本政府は尖閣諸島に領有権をめぐる争いは無いとの立場をとっています。)


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尖閣諸島

日本の防衛政策においての島嶼防衛とは、中国の侵略から離島を防衛することを指している場合がほとんどです。


日本には無数の離島がある


日本政府では公式的に、日本に所属する離島の数を6847島としています。さらに、中国との最前線となる沖縄県に所属する離島だけでも363島あるのです。これらを防衛するのは非常に大変なことですが、例え小さな無人島1つでも失えば、国益を大きく失することとなるために離島の防衛は極めて重要であると言えます。




日本の防衛最前線は北海道から東シナ海の島々へ



かつて、日本の防衛政策は北海道を重視していました。冷戦時代のソ連は極めて強大だったために、北海道にソ連軍が上陸した場合を考えた装備体系が取られました。北海道には本土と違い、大量の戦車が配備され、米軍が応援に来るまでの間、ソ連軍の侵攻を食い止めることを重視していたのです。

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北海道の陸上自衛隊 第71戦車連隊


しかし、ソ連が崩壊してしばらくすると、今度は中国が力をつけ始めました。このような経緯から政府は防衛の前線を北重視から南西方面重視へと変更したのです。

その結果、那覇航空基地には新たに第9航空団が編成され、戦闘機の配備機数を40機に増やしてF15Jが配備されました。さらに、沖縄や南西諸島を管轄する南西航空混成団は南西航空方面隊に格上げされました。

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F15J戦闘機

このように、政府は日本の防衛力を南に移して、沖縄や南西諸島の防衛を固めようとしています。


装備不足の自衛隊


しかし、現状では自衛隊の島嶼防衛能力は十分ではありません。なぜなら現在、自衛隊が保有する装備では射程距離が短い上、対地攻撃能力もレーザー誘導JDAM(レーザー誘導式爆弾)程度しかありません。

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F2によるレーザー誘導JDAMの爆撃

これでは、自衛隊は作戦時に敵占領下の領域に侵入せねばならないため、大変な危険が伴います。

また、最近、自衛隊が導入を決めた水陸両用装甲車AAV7も水上での速度が出ないため、敵に狙い撃ちにされてしまう危険もあり、より能力の高い水陸両用装甲車の調達も必要です。

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AAV7水陸両用車


さらに、部隊・装備の輸送力や航空支援能力も不足しており、これらの能力向上が急がれます。


専守防衛と攻撃装備


日本では、特に島嶼防衛を念頭に置いた射程距離が長い兵器を導入するにあたり、​一部に反発の声があるのも確かです。しかし、その反発意見の大部分はこのようなものです。

:

"射程距離の長い兵器は専守防衛に違反する"

"戦争を準備して自衛隊員を危険に晒している"


これらは全て大変な間違いであると言わざるを得ません。残念ながら、この国には"専守防衛"を勘違いしている人が多いように思います。



専守防衛について、以下は政府の公式見解です



"日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。"

(防衛省HPより一部引用)


自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められるということです、


すなわち、専守防衛というのは攻撃のための兵器を保持しないことではありません。むしろ、自衛に必要な必要最小限度の攻撃兵器の保持は認められているのです



長射程攻撃装備の必要性


ところが、ここで問題が発生します。すなわち

"島嶼防衛に使用するための長射程兵器は専守防衛に反するのか否か"

という問題です。

日本は当然、独立国家であるために自国の領土を守る必要があります。従って、離島を敵勢力に占拠された場合は、これを奪還しなければならないのです。そのときに、自衛隊が長射程兵器を保持していなければ、彼らは敵の攻撃兵器の射程範囲内に侵入して敵に攻撃をしなければならないため、殆ど特攻作戦のようになってしまいます。

すなわち、長射程兵器を保持しないことは返って自衛隊員を危険にさらすこととなるのです。



敵勢力上陸のシナリオ


敵勢力が上陸してくる際のシナリオは主に2種類考えられます。

1つ目は漁民に扮装した特殊部隊隊員が島を占拠するシナリオです。悪天候やエンジントラブルなどを口実にして島に上陸した彼らは、表面上は民間人であるために、日本側もすぐに自衛隊を出すことができません。そうこうしている間に中国軍は自国民の安全確保を口実にして島に上陸、あっという間に島を占拠されてしまうという流れです。これは、いきなり戦争に発展するリスクも少なく、かなり現実的な脅威と言えます。


2つ目は中国が公然と軍隊を送り込んで島を占拠するというシナリオです。彼らは、戦闘機や揚陸艦などの本格的な装備で島を瞬時に占拠したあと、速やかに要塞化するでしょう。
地対空ミサイル基地・通信基地・レーダー基地が建設されてから島を奪還するのは大変な困難を伴います。しかし、このような正規軍による大規模な侵攻は日本との全面戦争は避けられないうえに、日米安全保障条約の発動によって米中戦争まで発展してしまう可能性も大きく、このようなことが起こるリスクは前者と比べると低いでしょう。



島嶼防衛戦の様子と必要な装備


それでは、次に島嶼防衛戦がどのような様相を見せるのか、そして必要となる装備は何なのかを見ていきましょう。


①制空権・制海権の確保


この作戦において、制空権の確保は必須です。制空権を確保できれば制海権も確保出来るようになります。制空権の確保には戦闘機早期警戒管制機(AWACS)、さらには空中給油機が必要です。この任務には、制空戦闘機F15Jと早期警戒管制機E767・空中給油機KC767が使用されるでしょう。ただし、航空自衛隊において戦闘機F35Aの戦力化が完了している場合にはF35Aが投入される可能性もあります。

F15Jは、配備から40年以上経った現在も一流の戦闘能力を保持している制空戦闘機です。特に、近代化改修機は最新鋭の空対空ミサイルAAM4Bの運用能力を有しており、非常に心強い味方となります。

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F15J
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AAM4を発射するF15J


E767は、早期警戒管制機と呼ばれており、機体の上部の円盤状のレーダーで敵機をいち早く発見して味方戦闘機に伝える他、味方戦闘機を統制して高度に連携された運用を可能とします。一説には、E767の探知距離は800kmあると言われており、これは世界最高レベルです。

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E767

KC767はボーイング767型旅客機をベースに開発された空中給油機で、この機体から空中給油を受けることで作戦機の滞空時間が大幅に向上します。さらに、今後は後継機種のKC46Aが配備される計画です。

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F15Jに空中給油するF15J
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KC46A

これらの航空機が互いに協力する事で円滑な作戦が可能となり、速やかに領域付近の制空権を確保することに繋がります。E767が戦線の後方で待機しつつ、味方戦闘機を統制・指揮して、F15Jが敵戦闘機を付近の空域から追いやることで現場空域を制圧して制空権を確保します。


制空権を確保できれば、初めて制海権の確保が可能となります。

そうりゅう型潜水艦イージス艦などにより敵の潜水艦・揚陸艦・防空艦・航空機が接近するのを防ぎます。

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そうりゅう型潜水艦
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あたご型護衛艦
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あきづき型護衛艦



②敵部隊の偵察


上陸作戦を開始する前に、まずは敵部隊の人数や装備などを調べる必要があります。

これには、様々な手法があります。


・無人機・情報収集衛星での偵察

かなり高い高度を飛行可能なRQ4グローバルホークで画像を取得・分析します。

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RQ4グローバルホーク

または、情報収集衛星の光学衛星が取得した画像や、レーダー衛星が合成開口レーダーによって取得した付近の情報を分析します。

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情報収集衛星



・隠密上陸による偵察・工作・上陸支援

これは、おもに水陸機動団が担当します。

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上陸する水陸機動団


UH60ヘリコプターCRRCによる隠密上陸などで島に上陸します。

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UH60ヘリコプター
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CRRC

そして、敵の陣地構築状況や部隊の様子などを報告します。必要となった場合は、上陸作戦の障害となるミサイル発射設備・レーダー設備・通信設備などを破壊する工作活動を行うこともあります。



島に上陸


いよいよ、本格的な上陸部隊が島に上陸します。まずは先に隠密上陸した水陸機動団の部隊が、敵の陣地を後方から襲撃・撹乱させます。その隙に、CRRCAAV7水陸両用車・いずも型・ひゅうが型護衛艦を発進したオスプレイなどで部隊を島に上陸させます。

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V22オスプレイ 

上陸部隊はまず、周囲を警戒しつつ上陸地点付近を確保します。

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AAV7水陸両用車で上陸した隊員
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CRRCで上陸した隊員


次に、おおすみ型輸送艦のLCAC16式機動装甲車を揚陸し、16式機動戦闘車搭載の52口径105mmライフル砲により火力支援を行いながら、部隊を前進させます。


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16式機動装甲車

105mm砲は、敵が水陸両用車や装甲車・歩兵であれば、圧倒的な火力の差により瞬殺できます。もし、敵が戦車を揚陸させているようであればこちらもLCAC10式戦車を揚陸します。

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10式戦車

10式戦車は16式機動戦闘車をさらに大きく上回る火力を有しており、44口径120mm滑腔砲は極めて強力な火力支援を提供可能です。さらにF2戦闘機からのレーザー誘導JDAMによる爆撃やいずも・ひゅうが型護衛艦を発進したAH64D攻撃ヘリコプターによるロケット弾発射・30mmチェーンガンによる制圧射撃で敵を圧倒します。

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F2戦闘機

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AH64D攻撃ヘリコプター
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30mmチェーンガン


このようにして、自衛隊は離島奪還作戦を遂行します。



④敵の制圧後


もし、敵が正規軍を名乗っている場合は、国際条約に則って敵兵士を捕虜として保護しなければなりません。ただ、敵が私服を着た武装した民間人という設定であれば、犯罪者として逮捕・処罰できます。


今後必要な装備


さらなる島嶼防衛能力の強化に向けて、自衛隊ではより適した装備品の導入が必要です。ここでは、それらの例を挙げていきたいと思います。



強襲揚陸艦


強襲揚陸艦は、全通甲板を有し、ヘリコプター運用能力(場合によってはF35BやハリアーなどのSTOVL機運用能力) や上陸用船艇を搭載した、上陸作戦に特化した艦です

現在、日本にはヘリコプターと上陸用ホバークラフト2艇が運用可能なおおすみ型輸送艦が3隻配備されています。

しかし、甲板が耐熱仕様ではない故にF35BやV22オスプレイ を運用できません。さらに艦の規模も小さく、能力不足が指摘されています。

東京新聞の報道によれば現在、政府はF35Bの運用能力もあるいずも型と同程度の規模の強襲揚陸艦を導入することを検討しているようです。



・AAV7の後継(水陸両用車)


前述の通り、AAV7水陸両用車は速度不足と、防御の脆弱性が指摘されています。現在、三菱重工は後継の水陸両用車の開発を検討しています。


・攻撃用長射程ミサイル


政府は、2017年末に、JSM,JASSM-ER,LRASMの3種類のミサイルの導入を検討しているという報道がありました。

また、これらとは別に、日本政府は"島嶼防衛用高速滑空弾"なるものの開発を検討中としています。 

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島嶼防衛用高速滑空弾

この兵器は弾道ミサイルでも巡航ミサイルでもない新型の兵器と見られていますが、まだ詳しいことは分かっていません。

まとめ


島嶼防衛作戦について、ざっくりとは分かっていただけたでしょうか。

政府は現在も島嶼防衛能力の強化に向けた検討が各方面で行われています。

今後も、政府には継続して島嶼防衛能力の強化に取り組んで欲しいものです。