悪化する世界情勢


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北朝鮮は、金正恩政権になってから、核開発とミサイル開発を加速させている。2017年には16回ものミサイル実験2回の核実験を強行した。

東アジアのみならず、世界全体の情勢がきな臭くなってくる中、日本の弾道ミサイル防衛(MD)はどのような仕組みで行われているのだろうか。また、弾道ミサイルをどの程度まで迎撃可能なのだろうか。今回は様々な切り口から日本の弾道ミサイル防衛について、見ていくこととする。


そもそも、弾道ミサイルとは何なのか



弾道ミサイルはロケットで潜水艦や地上から発射されると最初の数分で急激に加速する。最高で高度1000kmほどまで上昇したミサイルは、燃料なしで慣性により飛行し、弾道軌道(ボールを投げた時のような軌道)を描きながら、秒速数キロメートルの速度で地上に落下する。


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弾道ミサイルの飛行経路(イメージ図)


現在の日本の弾道ミサイル防衛は2段構え



第1段階RIM-161 Standard Missile 3


​第1段階は、イージス艦から発射されるRIM-161 Standard Missile 3 (以下、SM3とする)による迎撃である。イージス艦のVLS(Vertical Launching System/垂直発射装置)から発射されたSM3の弾頭が、弾道ミサイルに衝突することによって目標を破壊する。SM3の後継として、現在SM3 Block2Aを日米で共同開発中である。



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イージス艦「きりしま」から発射されるSM3


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VLSから発射されるSM3


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イージス艦「あしがら」



第2段階PAC3


射程約20〜30kmの地上配備型迎撃ミサイルである。特に、2009年以降の最新版ソフトウェアを搭載したPAC3は迎撃率100%を誇る。

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展開中のPAC3



弾道ミサイルを探知時の対応



弾道ミサイル防衛は、現状ではアメリカの協力が欠かせない。弾道ミサイルの発射はまず、アメリカの早期警戒衛星が探知する。


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早期警戒衛星


アメリカの早期警戒衛星は、地球上のあらゆる地点を10秒に一度のペースでスキャンして、ミサイル発射時に発生する赤外線を検知する。


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弾道ミサイル迎撃のイメージ図


探知した情報は米軍から自衛隊に伝えられ、迎撃の準備態勢が取られることとなる。

 

政府が破壊措置命令を出した場合は、ミサイルが日本の領土領海、場合によってはアメリカの領土領海に落下する可能性がある場合に破壊措置(=迎撃)が実施される。

 

北朝鮮がミサイル発射を頻発していることを受けて、政府は2016年8月8日から常時破壊措置命令を発令しており、この措置命令は3ヶ月毎に更新される。



現在の日本におけるミサイル防衛の問題点



まず、根本的な問題はミサイル防衛は完全ではなく、失敗する可能性も大いにあるということである。例えば、敵のミサイルが1〜2発程度なら対応が可能でも、同時に20発などとなると、全てを迎撃することは難しい。


残念ながら、北朝鮮からミサイルで日本を攻撃する場合、大陸間弾道ミサイル(ICBM)といった大掛かりなものではなく、中距離弾道ミサイルでも十分なのである。彼らは中距離弾道ミサイルであれば大量に保有しているため、多数のミサイルの同時攻撃というのは現実的にも十分にあり得る脅威なのだ。


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北極星2型(北朝鮮の中距離弾道ミサイル)

 

さらに、弾道ミサイルの防衛にイージス艦が割かれている、このこと自体が憂慮すべきことなのである。そもそも、イージス艦の本来の目的は、弾道ミサイルを迎撃することではなく、味方の艦隊を対艦ミサイルから守ることなのだ。

 

つまり、貴重なイージス艦が弾道ミサイル防衛に割かれているということは、本来の任務が手薄になる可能性があるということなのである。

 

加えて、現在のミサイル防衛システム2段構えでは、前述の通り、ミサイルの飽和攻撃に突破されてしまう可能性が非常に高い。このことも大きな問題であろう。

 

また、ミサイルへの防御態勢は2段構えとは言っても、PAC3の射程は20〜30kmであり、非常に限られた範囲しか守ることができないのだ。実際に、PAC3によって守られているのは関東圏の人口密集地と全国の自衛隊基地や米軍基地、重要防護施設の一部に限られている。

 

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PAC3の配備場所

 

つまり、日本の国土の大部分は、実質的にはイージス艦による一段構えの防衛体制しか取られていないのである

 

これらの問題を解決するために新たに陸上自衛隊に導入されるのが、イージス・アショアだ。


イージスアショアとは?

 

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イージス・アショア

 

イージス・アショアとは、簡単に言えば、イージス艦のレーダーと戦術処理装置・ミサイル発射装置を陸に設置したものである。

 

射程距離は最新型のSM3 block2A の場合、約2500kmで、2基のイージスアショアで日本全体をカバーできる。

 

また、イージスアショアはTHAAD(ミサイル防衛システムの一種)よりも費用対効果に優れている。


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 THAAD

 

ここまでイージスアショアの利点ばかりを取り上げてきたため、イージスアショアは万能なようにも見える。しかし、実のところはイージスアショアには大きな問題が2つある。

 

1つ目は、イージスアショアはミサイルを迎撃する高度がイージス艦と被っている点​である。

 

つまり、多段的な防衛はできないということになる。高高度で撃ち漏らしたら次は中高度、それでも撃ち漏らしたら低高度で、といった運用ができないのである。この点に関しては、イージスシステムの高高度とPAC3の低高度の間の中高度でミサイルを迎撃するTHAADが優れていると言える。

 

しかし、政府はすでにイージス・アショアの導入を決定しており、秋田県と山口県に一基ずつ配備される予定だ。

 

そして2つ目、これは日本のミサイル防衛政策最大の問題点、すなわち日本がミサイルを防衛する能力だけで、根本的な問題を取り除く能力がないことだ。

 

要するに、日本は敵基地攻撃能力を持たない​ということである。

 


実質的には、敵基地攻撃能力 を保持する予定の自衛隊

 


日本政府は、2017年、実質的な敵基地攻撃能力を保有する予定であることを発表した。

 

ここまで読んで頂いた方ならお分かりいただけたるであろうが、敵基地攻撃能力を持たずに敵ミサイルの迎撃だけに固執するだけでは、いつかは我々のミサイル迎撃システムを突破されてしまうのだ。

 

これでは、相手に勝つどころか、良くても引き分け(=我々が全弾を撃墜して敵側がミサイルを撃ち尽くした場合)である。実際には、ほぼ確実に我々は一方的に攻撃に晒されて大きな被害を被るであろうということは火を見るより明らかだ。

 

敵基地攻撃能力を持つことにより、敵は自分への報復攻撃を恐れて、攻撃を躊躇する。さらに、相手が攻撃して来た場合には、直接相手の基地を攻撃することにより、積極的に脅威を除去することができる。

 

これらは、一般的に抑止力とも言われる。我々の自衛のための武装は結果的には自国の安全に資するのである。

 


自衛隊が手に入れる"敵基地攻撃能力"とは


具体的には、"JASSM ER"、"LRASM"、"JSM"

などの巡航ミサイルの導入を検討している模様である。


巡航ミサイルとは、弾道ミサイルとは異なり、大気圏内をジェットエンジンで飛行する。

また、弾道ミサイルが超音速で飛行するのに対して、巡航ミサイルは亜音速で飛行する。

 

以下は、それら巡航ミサイルの特徴をまとめた表である。

 

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産経ニュースより


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JASSM

 

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JSM

 

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LRASM

 

 

F15は航空自衛隊の主力戦闘機ですあるが、これらの搭載には小規模な改修が必要なようだ。 (パイロンの改修)

 

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F15J

 

F35は航空自衛隊に配備が進められている最新鋭ステルス戦闘機で、敵のレーダーに映りにくいため、相手に気付かれる前に攻撃を行うことが可能である。

 


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F35



http://milita15.blogo.jp/archives/7009724.html
航空自衛隊にも導入された最新ステルス戦闘機"F35A"の実力とは」


*F35については上の記事を参照されたい

 

特に、JASSM ERは射程距離約1000kmで、日本上空から平壌を攻撃できる。北朝鮮への抑止力という意味でも極めて有意義と言える。




 


弾道ミサイル防衛のこれから

 


弾道ミサイル防衛は今のところ、多数の問題点がある。これからもこれら全てを解決するのは不可能であろうが、同時飽和攻撃への対処能力を高めたり、敵基地攻撃能力を強化して抑止力を高めたりといったことは必要となる。

 

東アジアは、第二次世界大戦後にもまれに見るほど、不穏な空気が漂っている。

 

戦後70年以上経ったいま、日本は安全保障政策において大きな転換点に立たされているのかもしれない。